傷が目立たない腹腔鏡下手術を実践
日本では増加の一途を辿っている大腸がん。男女ともにトップ3に入っている。男性では胃がん、肺がんに次いで3番目、女性では乳がんに続いて2番目に多い。
以前は、直腸がんが多かったが、近年は結腸がんが多くなってきている。これは食生活の欧米化が大きな要因とされている。例えばハイカロリーな食事をすると、動物性脂肪の摂取量が増加し、脂肪の消化酵素である胆汁がたくさん分泌される。実は胆汁に含まれる胆汁酸が腸内の発がんに関与していると考えられているため、がんの発症につながるとされる。
また食物繊維が不足すると、便が腸内に長くとどまることになる。すると発がんを促すとされる胆汁酸が腸に触れる時間も長くなり、発がんのリスクが高まるのだ。
大腸がんの初期は自覚症状はほとんどない。やや進行すると、便が細くなったり、血便が出たり、腹痛が起きたりする。「違和感を感じたら、早めに消化器科や肛門科を受診することが大切です」と中村文隆外科部長は訴えている。

メリットがたくさんある腹腔鏡下手術
大腸がんが疑われる場合に行われるのが便潜血検査。便の中に血が混じっているかどうかを調べる。これが陽性の場合、さらに詳しい検査が必要になる。バリウム検査と大腸内視鏡検査のどちらかが選択されるが、精度の高さから内視鏡検査が現在の主流だ。
「早期のがんならば、この内視鏡により治療することが可能です。以前は2センチ以上あると内視鏡での治療は困難でしたが、大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)と呼ばれる治療法が考案され、早期であれば治療が可能になっています。しかし進行したものは外科手術が必要になります」と中村部長は教えてくれた。

中村部長は「腹腔鏡下手術の適応は病院によって違いがありますが、早期がんの場合、当院では大腸の部位に関係なくすべての手術で腹腔鏡下手術を用います。また進行がんでも、肛門に近い直腸下部のがんを除いては腹腔鏡下手術をおこなっています。傷が小さい、出血量が少ない、回復が早いなどメリットがたくさんあるからです」とその意義を説明してくれた。
単孔式腹腔鏡下手術の実施例は120例
この腹腔鏡下手術における手術法が、単孔式腹腔鏡下手術だ。傷口をできるだけ小さく、そして体への負担を減らそうと考え出された手術法で、おへその下の1カ所のみ穴を開けて手術が行われる。
「従来の腹腔鏡下手術では、腹部に3〜4カ所穴を開ける必要がありましたが、この手術法では1カ所。術後の傷もほとんど分かりません。当院では2010年以来、120例ほどおこなっています」と中村部長は自信を見せる。
大腸がんの分野では、こうした体への負担が少なくて済む手術法に加え、新しい薬剤も次々に開発されている。大腸がん全体の5年生存率も73%だ。しかし、大腸がん患者は増加する一方。中村部長は「まずは食生活に気をつけること。また早期発見は早期治療につながるので、ぜひ定期的に検査を受けて欲しい」と忠告している。