最先端の内視鏡検査で、小さな病変を見つけることも可能に
膵がんががんの中でもっとも恐ろしいとされる要因はその生存率にある。5年生存率はわずかに10%。初期の段階から周囲に広がったり、転移もしやすい。そのため「がんの王様」という別称もあるほどだ。
ただしステージ0で発見することができれば5年生存率は80%に上がる。しかし上腹部鈍痛などはあるものの特異的な初期症状が乏しいのが特徴。無症状で発見される膵がんは15%を占めており、手術ができない状態になってから診断されることが多いのだ。

膵がんの早期発見が難しい理由について潟沼朗生センター長は「進行が早いために小さい段階での治療が難しいことに加えて、有効な血液学的マーカーもない」と語る。そのため、定期的な検査が不可欠だ。
一般的には超音波検査を行うが、膵臓は解剖学的に胃の後ろ側にある細く薄い臓器で、小さい腫瘍の発見は非常に困難を極める。そこで有用なのが造影剤を使ったCTやMRI、そして潟沼センター長が得意としている超音波内視鏡下吸引穿刺法(EUS-FNA)だ。
従来はできなかった早期発見で早期治療を
潟沼センター長は膵がん、胆道がん、胆石などの胆膵疾患を専門としており、日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会認定医・指導医などの認定資格を所有。手稲溪仁会病院の医師でありながら、東京医科大学病院の客員教授も務めている。また日本消化器内視鏡学会では、超音波内視鏡下穿刺術関連の研究会の世話役も担っている。
その超音波内視鏡下吸引穿刺法は、2010年4月から保険適用になった最先端の内視鏡検査だ。超音波内視鏡とは超音波装置を持つ内視鏡で、消化管の中から消化管壁や周囲組織・臓器などの診断を行うことが可能。従来では見つけづらかった10mm以下の病変を見つけることもできるのが特徴だ。
超音波内視鏡下吸引穿刺法は、この超音波内視鏡で病変の一部を採取。確定診断が困難とされる膵臓や胆嚢・胆管はもちろん、腹腔内腫瘍やリンパ節、腹水、縦隔内などの病変に対する画期的な診断法となっている。
潟沼センター長は「膵臓の検査は、超音波内視鏡を用いて胃や十二指腸から細い針を刺し、病変部位の組織を採取する方法で、小さい腫瘤に対する確定診断に有用です。当院では超音波内視鏡検査を2016年度は1,090件実施し、そのうち吸引穿刺法(FNA)は158件の実績があります」とその有用性を語る。
複数の抗がん剤を組み合わせるなど化学療法が進歩
潟沼センター長が在籍する手稲溪仁会病院消化器病センターは、消化管、胆・膵、肝臓の3つのグループに分かれ専門性の高い医療を実施。そのうち胆・膵グループの実績は、膵がん143件、肝がん61件、胆管がん33件など(いずれも2016年度)。
膵がんにおける治療の原則は外科手術だが、手術が適合になるのは転移などが認められず、進行していない患者に限られている。潟沼センター長は「手術ができない場合、化学療法か放射線治療が選択されますが、化学療法が急速に進歩している。抗がん剤のゲムシタビンやS1のほか、複数の抗がん剤を組み合わせて治療を行うFOLFIRINOX療法や、ゲムシタビンとナブパクリタキセル併用療法が標準的な治療です」と教えてくれた。
膵がんの初期症状は乏しいが、腹痛や黄疸などの症状がでることがある。また家族に膵がん患者がいる、糖尿病などの危険因子もわかってきている。
潟沼センター長は膵がんの早期発見には検査が不可欠とし、「膵がん患者が身内にいる方、糖尿病と初めて診断された方やコントロールが悪くなった方、膵炎や膵のう胞と診断された方は膵がんの検査も受けることをお勧めします」と注意を促している。